関節リウマチ
関節リウマチとはどんな病気なの?
関節リウマチとは、アメリカの教科書であるリウマチ入門からその定義を引用すると、「可動関節に最も顕著な症状が現れる慢性、炎症性,全身性疾患である。持続性進行性の滑膜炎が末梢関節に発現する。」とあります。
つまり、膝のような大きな関節ではあまり発現しないのですが(背骨においては首の1番上の関節を除く)、免疫の異常により、主に手足の関節で慢性的に痛みや腫れを起こす病気です。最初は痛みや腫れが多いですが、進行していくと関節の変形や関節だけでなく目などの他の場所にも症状が出てしまうこともあります。
関節リウマチにはどんな人がなりやすいの?
関節リウマチの日本人の有病率は、約0.5%と言われています。つまり、200人に1人が関節リウマチにかかっていることになり、日本で約70万人の患者さんがいると考えられます。
発症年齢は、20歳~60歳と幅広く、以前は平均で40歳前後でしたが、最近では60歳前後で発症されることが多く、中には90歳で発症される方もいらっしゃいます。
男女比は1:4程度で女性優位です。
関節リウマチの原因は何ですか?
関節リウマチのような慢性疾患は、内因(遺伝子因子)と外因(環境因子)の両方が関与しています。
関節リウマチに関しては、遺伝子の関与がすでに明らかになっており、同胞(同じ父母から生まれた兄弟姉妹)が関節リウマチになると、兄弟姉妹が関節リウマチになる可能性は3%程度です。遺伝子の中で最も重要と言われているのが、HLA(ヒト白血球抗原)です。このHLAは臓器移植のときにその一致性が非常に重要なのですが、関節リウマチの発症にも大きく関係しています。あるHLAを持っていると関節リウマチの発症率は約3倍になると言われています。
環境因子としてよく知られているのは、喫煙と歯周病です。両者とも慢性炎症を起こし、喫煙は主に肺に、歯周病は歯根部に炎症を起こすのですが、血管を介して体の他の部分にも炎症を起こしてしまうのです。喫煙も歯周病も関節リウマチの発症率を2~3倍にすると言われています。
そして、さらに重要なこととして、関節リウマチを起こしやすい特定のHLAをもつ人が喫煙したり、歯周病になると抗CCP抗体(関節リウマチに特異性の高い抗体で、滑膜にあるシトルリン蛋白という抗原とくっついて炎症を起こします)が作られてしまい、関節リウマチを発症してしまいます。ここに、遺伝因子と環境因子の協同作業が見えます。
関節リウマチはどんな症状が出ますか?
関節リウマチの症状には、関節に起こる「関節症状」と、関節以外に起こる「関節外症状」とがあります。
関節症状
関節症状は、日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)の部分で問題になります。
関節炎
手や足の指などの小関節を中心に炎症が起き、赤っぽく腫れ、さらに動かすと痛みが出ます。
手足の指だけでなく、肘や膝などの関節にも起こることもあります。関節リウマチにおける関節炎は、左右対称に起こったり、複数の関節で多発的に起こったり、全身の関節のあちこちすることが特徴です。
関節炎は、進行が進んでいくと関節の変形を起こしてしまうことがあり、手指の関節では、「ボタン穴変形」や「スワンネック変形」といった変形がみられます。
ボタン穴変形
第1関節(指先に1番近い関節:DIP関節)が過伸展して、反ってしまい、第2関節(指先に2番目に近い関節:PIP関節)が反対に屈曲して曲がったままに変形してしまった状態。
スワンネック変形
第1関節が屈曲して曲がったままになり、第2関節が過伸展して反ってしまったままに変形してしまった状態。
変形し指が白鳥の首に似ているため、このように呼ばれています。
足の指関節の変形としては、「外反母趾」や「槌趾」がよく見られます。
外反母趾
足の親指の付け根の関節が亜脱臼を起こしてしまうことが原因で起こります。外反母趾になることで、外側に飛び出てしまった親指の付け根部分が靴との摩擦によって、痛みや潰瘍を起こしてしまったり、進行すると歩行困難になってしまう場合もあります。
また、足の人差し指や小指の付け根部分に胼胝(べんち:たこ)を作ってしまうことが多く、これもまた歩行時の痛みの原因になります。
槌趾
通常は足の人差し指(中指・薬指に出ることもある)がZ字型に曲がってしまう状態。第2関節がほかの指よりも高い位置になってしまうために、靴と摩擦が起こってしまい、足の指にうおのめや潰瘍ができてしまったりします。
朝のこわばり
起床直後に、手や足の指などの関節を動かしにくく感じることがあります。これは、睡眠で長時間関節を動かさないことが原因のため、起きて関節を動かしていくことで症状が和らいでいきます。朝のこわばりは、病状が進行していくと、こわばりが出ている時間も長くなる傾向があります。
関節外症状
関節リウマチは、関節以外の部分で症状が出ることがあり、これを「関節外症状」と呼びます。全身症状として、貧血や発熱、全身の倦怠感、体重減少や食欲不振などが出たり、その他様々な臓器に症状が現れる可能性があります。
神経に現れる関節外症状
手根管症候群:手首の関節が腫れてしまうことで、正中神経という神経を圧迫してしまいます。この神経を圧迫してしまうことで、手の親指・人差し指・中指あたりが痺れたり、痛くなったりします。
肺に現れる関節外症状
肺の間質という部分(酸素と二酸化炭素の交換をしている肺胞の壁)や胸膜(肺を覆っている膜)で炎症を起こしてしまうことで、間質性肺炎や胸膜炎を起こしてしまいます。また、これらは病状が進行していくと、息切れや空咳(痰のない咳)、さらには安静にしていても息苦しくなったり、肺が線維化(固くなり、膨らまなくなってしまう)して肺線維症になる場合もあります。
腎臓や消化器などに現れる関節外症状
続発性アミロイドーシス:関節リウマチによって炎症が長期間続くと、アミロイドAという物質が増加してしまい、このアミロイドAが全身の臓器(消化器や腎臓、心臓など)に沈着すると、各臓器に支障をきたすことがあります。
腎臓 | 尿にタンパクが出てしまうため、血液中のタンパクが減ってしまい、むくみが起こったり(ネフローゼ症候群)、腎不全になって透析になってしまうことがあります。 |
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消化器 | 吸収不良が起こり、それに伴って栄養障害が起こったり、下痢症状が現れたりします。 |
心臓 | 不整脈(心臓の心拍リズムが乱れた状態)や心不全(心臓のポンプ機能が悪くなり、ちゃんと働かなくなった状態)が現れることがあります。 |
目に現れる関節外症状
強膜炎、上強膜炎:強膜(目の白目部分)、強膜を覆う上強膜に炎症が起こり、目が充血したり、痛みを感じたりします。上強膜は一般的に自然に良くなっていく経過をたどることが多いですが、強膜炎はしばしば重症化することもあります。
皮膚に現れる関節外症状
リウマトイド結節:関節リウマチの患者さんの約20%に見られるもので、肘や膝の前面や後頭部などの圧迫されやすい場所にできる、小豆大から大豆程度の大きさのしこりです。しこりは自然消失することが多く、痛みもありません。
心臓に現れる関節外症状
心膜炎・心筋炎:心臓を覆っている心膜や心臓の筋肉に炎症がおきて、動悸や息切れ、胸痛などを生じます。
関節リウマチはどのように起こるのですか?
正常な関節
正常な関節は、骨の端に骨を守る関節軟骨があり、クッション機能をしており、衝撃などから骨を守る役割をしています。そして関節は、滑膜という薄い膜に包まれています。この滑膜には、関節腔中に栄養を供給する役目があります。
関節リウマチになると…
関節リウマチになると、関節を包んでいた滑膜という部分に炎症が起き、増殖していきます。滑膜の炎症のために、関節腔の水分量が増え、関節自体が腫れていき、痛みが出るようになってきます。関節リウマチがさらに進行していくと、増殖した滑膜は、骨や軟骨を溶かす酵素を大量に作り出し、骨を溶かしていきます。骨や軟骨が壊されていくことによって、関節の変形が起き、さらに進行していくと軟骨がなくなり、骨と骨とが接して、関節を曲げることができなくなってしまういます。
関節リウマチの診断はどうやってされるの?
現在、関節リウマチの診断には、2010年にアメリカリウマチ学会とヨーロッパリウマチ学会が共同で作成した分類基準が用いられています。(下図)
なぜ新しい分類基準が作成されたかというと、以前のものはなかなか厳しく作られていて、関節リウマチ以外が関節リウマチと診断されることはほとんどない一方で、診断自体が遅れてしまい、骨破壊が進んでしまう可能性がありました。そこで、2010年に新しい基準ができたのですが、逆に関節リウマチ以外を関節リウマチと診断してしまうケースも増え、鑑別に十分注意を払わないといけなくなりました。この2010年の分類基準は、「世界中どこでも同じ基準で診断する」という考えのもとに、画像は単純X線写真のみです。日本では関節エコーやMRIも簡単に安価で行なえるため、鑑別診断のために用いられ、診断精度を上げるのに貢献しています。
鑑別診断についても触れます。鑑別診断とは、症状を引き起こす疾患を絞り込むために行う診断で、症状が他の要因から起こっていることを否定し、疾患を正確に診断するために行ないます。
世界中の医師が2010年の分類基準を用いて関節リウマチの診断をしていますが、この分類基準を満たす患者さんの約1/4が最終的には診断名が変更になっています。
左図(枠外にある画像です)は、関節リウマチと鑑別が必要な疾患を日本リウマチ学会が挙げており、難易度別になっています。これらの疾患には、それぞれの分類基準がありますので、照らし合わせどの疾患の可能性が高いのかを考えて診断を行ないます。
関節リウマチの治療は何をするの?
関節リウマチの治療はこの20数年で劇的に変化しました。主な理由は薬剤の進歩です。40年前には病院の待合室に車いすで来院される患者さんがたくさんおり、その頃の統計では、平均寿命は75歳でした。関節機能障害で寝たきりになると数年で肺炎を起こし、亡くなる方が多かったのが薬剤の進歩により、関節破壊が劇的に減少し、平均寿命も延長してきています。
関節リウマチの治療目標
関節リウマチの治療目標は、「寛解状態」です。すなわち、症状がほとんど無く、検査所見もほぼ正常範囲に入る状態です。寛解状態になると、骨破壊はほとんど進行しません。
関節リウマチの寛解は、
- 臨床的寛解:関節の痛みや腫れをとること
- 構造的寛解:骨・関節破壊の進行を抑えること
- 機能的寛解:生活機能(QOL)を改善すること
そして、関節リウマチの治療は、「Treat to Target(T2T:目標達成に向けた治療)」という考えで行われます。患者様と医師が一緒に目標を決め、その目標に向かって治療を進めていく、という考えです。
治療の流れ
関節リウマチの治療は、薬物療法が中心で、薬物療法が効果不十分な場合、場合によって手術療法を行ないます。また、基礎療法やリハビリテーションなどは、薬物療法と並行して行なうことで、関節の炎症や機能障害の進行を遅らせる効果があります。
関節リウマチの治療薬
関節リウマチの治療は、抗リウマチ薬のDMARDSを使用します。
抗リウマチ薬 DMARDS
現在の関節リウマチの治療は、禁忌事項がない限り、メトトレキサート(MTX)という抗リウマチ薬が使用されます。この薬は、免疫機能を抑制する効果があり、病気の進行を抑える作用があります。
DMARDSには、メトトレキサートを含む従来型抗リウマチ薬の他に、生物学的DMARDS、分子標的型DMARDSがあり、これらを効果不十分な場合は、併用したり、他のものに切り替えたりしながら治療を行ないます。
1点問題としては、生物学的DMARDS、分子標的型DMARDSは非常に効果が強力である一方で、副作用に注意すべき点が多いことと値段が高価であることがあります。
そのほか、腫れや痛みを抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬NSAIDSなどを用いることもあります。
関節リウマチは、発症後数年間が最も進行することが分かっています。そして、治療開始が早いほど、薬物療法の反応も良いと考えられています。
腫れや痛みを強く感じていなくても、関節破壊が進んでいることもあるため、できる限り早く治療を始めることが大切です。
今後も治療薬をうまく使い分け、関節リウマチの患者様の関節炎を改善し、なおかつ副作用が出ないような治療を心がけていきます。
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