虚血性心疾患
冠状動脈のお話
心臓は全身に血液を送り出すポンプの働きをする大切な臓器です(1分間に約4~5リットル)。その大きさは皆さんの握りこぶしより少し大きいぐらいで、全体が筋肉でできています。心臓の表面を冠のように覆って心臓自体に酸素や栄養を与えている血管を冠(状)動脈といいます。冠動脈は左右2本あります。左冠動脈は更に、心臓の前側を栄養する前下行枝、後ろ側を栄養する回旋枝に分かれます。右冠動脈は心臓の下側を栄養しています。この3本の冠動脈により心臓全体に栄養が供給されています。もしこれらの冠動脈が、動脈硬化のために狭くなったり、万が一完全につまったりすると、心臓の筋肉がポンプとして働くために必要な酸素と栄養が足りなくなります。この心臓に流れる血液が乏しい状態を「虚血」と呼び、このような状態に陥ってしまい、病気となってしまった心臓の状態を「虚血性心疾患」と呼びます。
虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)
虚血性心疾患の中で代表的な病名としては、狭心症と心筋梗塞があります。これらは心臓に酸素と栄養を与える冠状動脈の動脈硬化による病気です。狭心症は、冠動脈が動脈硬化のために狭くなり、その結果として十分な量の酸素と栄養が心臓に運ばれないために起こります。
狭心症
狭心症の症状には、
①胸の痛み(胸の真中あたりの締め付けるような痛み)
②息苦しさ
③心悸亢進(動悸とも呼ばれます。心臓がドキドキすることです)
④今までよりも運動能力が落ちる(今まで何ともなかった大船駅の階段が辛くなった、など)
などがあります。
冠動脈の詰まりがひどくなり、狭心症も重症になってくると心臓のポンプとしての能力も低下し、心不全となることがあります。さらに進行すると、横になって休んでいても胸痛が起こるような不安定狭心症という危険な状態にも陥ります。
急性心筋梗塞
冠動脈の動脈硬化が進行して血栓(=血のかたまり)なども関わって冠動脈が突然詰まると急性心筋梗塞になります。急性心筋梗塞とは、冠動脈が突然詰まり(=閉塞)、この結果心臓への酸素と栄養の供給が突然無くなってしまったために心臓の筋肉が腐ってしまった(=壊死)状態です。急性心筋梗塞にかかると、多くの場合、激しい胸の痛みを感じます。この時の痛みは人間が味わう痛みの中でも一番強い痛みだとも言われています。さらに、痛みだけでなく、心臓が止まってしまうような不整脈が起こったり、またポンプとしての働きも低下してしまったりしますので生命の危険があります。時には心臓が破裂(=心破裂)してしまうこともあります。このため、急性心筋梗塞にかかった場合速やかに適切な治療をすぐに受けないと、その死亡率は30%以上ありますが、速やかに適切な治療を受けることにより、死亡率を10%以下に低下させることが出来ます。急性心筋梗塞を再発した場合には、死亡率は約50%といわれています。
冠動脈インターベーション(PCI)
冠動脈インターベンション(PCI)は1977年に当時チューリッヒ在住であった Dr. Andreas Gruentzigにより初めて実際の患者さんに対して治療が行われました。この時は、単純な風船の拡張により、冠動脈狭窄病変を拡大し成功裏に治療が行われました。
この時より、既に40年以上が経過し、その間に様々な治療法の改良と医学的知識の蓄積が行われ、現在では薬物・運動・生活療法、外科的冠動脈バイパス手術と並んで、冠動脈硬化により引き起こされる虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)に対する安全で有効な治療法として確立されています。
冠動脈インターベンションの種類
- 風船治療(薬剤溶出バルーン:DCB)
- 冠動脈内ステント植え込み(薬剤溶出性ステント、生体吸収性ステント等を含む)
- ダイヤモンドバック(OAS)
- ロータブレーター
などがあります。
冠動脈内に風船やステントなどの治療器具を持ち込むためには、まず動脈にカテーテルと呼ばれる細い管を入れる必要があります。カテーテルを動脈に入れる場所は主に3ヵ所あります。それは足の付け根の動脈(=大腿動脈)、肘の部分の動脈(=肘動脈)そして手首の動脈(=橈骨動脈)です。この3ヵ所の中で大腿動脈と橈骨動脈が良く用いられ、当院では橈骨動脈から入れることが最も多いです。
橈骨動脈冠動脈形成術(TRI =TransRadial coronary Intervention)
最大の利点は、患者さんが楽だ、という点です。手技終了後の患者さんにとっては辛いつらいベッドの上での安静が必要でなく、また出血による合併症はほとんど起こりません。しかし、医者から見ればTRIはその技術が高度こうどであり、その実施には熟練が必要ひつようです。また、橈骨動脈は比較的細い動脈なので太い器具きぐを用いた治療を行うことはできません。また、治療の後にカテーテルを入れた側の手首の脈拍が触れなくなることもあります。脈拍が触れないよりも触れるにこしたことはないですが、実際には脈拍が触れなくなったとしても、非常に特殊な場合を除けば何ら問題はありません。治療が終了し、明らかな合併症が無ければTRIでは数時間の軽い安静の後で自由に体を動かすことができます。そして普通は長くて翌々日、早くて治療当日に退院することができます。
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