特発性正常圧水頭症外来
治る認知症とも呼ばれる『特発性正常圧水頭症』(iNPH)
正しく診断・治療することで症状の改善が期待できます。
特発性正常圧水頭症(iNPH)とは
水頭症とは、何らかの原因で脳脊髄液が多くなっている病態のことです。水頭症と聞くと、子供の病気と思っている方も多いと思われますが、特発性正常圧水頭症は高齢者になってから発症する水頭症で、過剰に増えた脳脊髄液の影響で、脳の前頭葉が広範囲にわたって障害されることにより、様々な症状が現れます。症状としては、歩行障害(小刻みの歩行となり転びやすくなる)、認知機能の低下、失禁(漏らしてしまう)等のため、正常な加齢現象との区別が難しい病気です。くも膜下出血や頭部外傷、髄膜炎などの疾患に引き続き水頭症となることがあります。
この時は続発性正常圧水頭症といわれ、症状も進行も比較的早いため、見過ごされることは少ないのですが、特発性正常圧水頭症は症状の進行が緩徐であることから気づかれず、歳だからしょうがない、ということで病院にも行かず、放置されていることも多い病気です。また、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病と誤診され、誤った治療がなされていることもあります。ただ、アルツハイマーやパーキンソン病と特発性正常圧水頭症が合併することもあり、その正確な診断が難しくなっているのです。

特発性正常圧水頭症の3つの特徴的な症状(三徴)
特発性正常圧水頭症の疫学
残念ながら日本でも外国でもこの病気がまだ十分知られていません。
70~80歳代で多く発症し、最近の疫学調査では高齢者の有病率は1%程度で、10万人当たり250人程度が罹患しているといわれています。アルツハイマー型認知症の有病率が10万人当たり約1000人、パーキンソン病の有病率が10万人当たり約100~150人といわれていることから、少なくともパーキンソン病よりも多いことになり、一般的に持たれている印象よりもかなり多い有病率であると考えられます。
特発性正常圧水頭症の症状
歩行障害、認知障害、排尿障害の三つが特徴的な症状(三徴)といわれ、歩行障害が90%出現し、認知障害は80%、排尿障害は60%にみられ、三徴が揃うことはほぼ半数といわれています。
三徴の中では、歩行障害が比較的特徴的で、小刻みで足を開いたような歩行となり、方向転換も困難となってきます。パーキンソン病でも小刻みな歩行になりますが、足を開いたような歩行にはならないので、このことが鑑別点となってきます。このような歩行になると転倒しやすくなります。
実は65歳以上の10~20%の人が1年に1回以上転倒し、そのうち5~10%の人が骨折を起こしています。転倒した方の20%の人に特発性正常圧水頭症の疑いがあるといわれています。転倒し大腿骨の骨折を起こすと、これがきっかけで寝たきりに近い状態になってしまうこともあります。転倒しやすい高齢者は特発性正常圧水頭症の可能性がありますので、一度、主治医に相談されるのが良いでしょう。

歩行障害の特徴
認知障害は無関心、集中力低下などが主体となっており、アルツハイマー型認知症のように見当識障害(日付や場所が分からなくなる)や被害妄想等の症状は少ないのですが、診断は難しいことが多いです。
特発性正常圧水頭症(iNPH)の症状チェックリスト
症状のタイプ | 状態 |
---|---|
歩行障害 | □ 足が上げづらく、小刻みに少しずつ歩く。 |
□ 開脚で不安定な歩き方になる。 | |
□ 不意に転倒してしまうことがあり、特に転回するときにふらつきが大きい。 | |
□ 歩くときに、第一歩が出なかったり、床に張り付いたような歩きにくさを覚える。 | |
□ 歩くことができない、または、立つと不安定である。 | |
認知症 | □ 最近、物忘れがひどくなった。 |
□ 意識がなくなり、日ごろ習慣としていることや趣味などをしなくなった。 | |
□ 集中力を維持するのが難しく、ぼーっとしてしまう。 | |
□ 怒りっぽくなった。 | |
尿失禁 | □ おしっこの我慢できる時間が非常に短くなった。 |
□ 頻尿または尿失禁状態である。 | |
その他 | □ 表情が乏しくなる。 |
早期発見と治療が大切です。もしかしたら…と思ったら専門医を受診しましょう。
特発性正常圧水頭症の診断
三徴の症状から特発性正常圧水頭症を疑い、頭部CT検査や頭部MRI検査などを行います。脳室という、脳の中にある脳脊髄液の貯まっている部分の拡大所見があれば特発性正常圧水頭症の疑いが出てきます。ただし、脳の萎縮でも脳室は拡大してみえます。脳の萎縮した場合には脳溝(いわゆる脳のしわの部分)が全体的に目立つようになりますが、水頭症の場合には部分的に脳溝が目立つようになります。症状、画像所見だけで特発性正常圧水頭症を確定できない場合には、腰の所から脳脊髄液を一時的に抜いて、症状の改善がみられるか検査を行うこともあります。
特発性正常圧水頭症の治療
現在、認められている治療は髄液シャント術という手術治療のみです。脳室、もしくは腰部の脊髄周囲のくも膜下腔(髄液の貯まっているところ)にチューブを入れて、そのチューブを皮膚の下を通してお腹の中に入れ、余分な脳脊髄液を吸収させるという治療法が主体となっています。全身麻酔で行うのが一般的ですが、1時間もかからずできて比較的侵襲の少ない手術です。手術治療により、症状の70~90%が改善します。


髄液シャント術
特発性正常圧水頭症の転帰
グループホームや特別養護老人施設へ入所している方の10~20%が特発性正常圧水頭症であるとのデータもあります。介護が必要な状態にあった方の半分が、治療を行うことで自立もしくは支援で生活できるようになるというデータもあります。しかし、特発性正常圧水頭症で何年も歩けなくなった方を手術して歩けるようになるといった効果は期待できません。ですから、症状が悪化する前に治療を行うことが大切です。
外来診療について
特発性正常圧水頭症外来は予約制です。受診をご希望の方は病院代表までお電話頂き、予約センターでご予約ください。
担当医師:宇津木 聡(脳神経外科)
外来日:毎週 木曜日 午前(予約制)外来担当表はこちら
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TEL0466-35-1177(病院代表)
医師紹介
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宇津木 聡部長専門分野脳神経外科経歴1992年卒 北里大学専門医・認定医等
- 日本脳神経外科学会脳神経外科専門医
- 日本脳卒中学会脳卒中専門医
- 日本認知症学会専門医・指導医
- 日本神経内視鏡学会技術認定医
- 医学博士
- 厚生労働省認定臨床研修指導医